平成29年3月6日号

特許ニュース

知財高裁、電子ショッピングモール特許を進歩性欠如により無効と判断

原告が被告に対し、原告保有の電子ショッピングモールの管理に係る特許に基づき特許権侵害による損害賠償を請求した事案において、知財高裁は原告特許に関し、進歩性欠如により無効であると判断した(知財高裁平成28年11月24日判決(平成28年(ネ)第10027号))。

事実関係

エムエフピー マネジメント リミテッドおよびX(個人)(原告ら)は、発明の名称を「電子ショッピングモールシステム」とする発明についての特許第4598070号(本件特許)の特許権者である。

楽天株式会社(被告)は、電子ショッピングモール「楽天市場」の運営・管理を行う会社である。

原告らは、被告に対し、被告による電子ショッピングモールの管理装置(被告装置)の管理運営および管理方法(被告方法)の使用が、本件特許に係る訂正前の請求項4記載の発明(管理装置の発明)および同請求項7記載の発明(管理方法の発明)の技術的範囲にそれぞれ属すると主張して、不法行為および不当利得に基づき、原告らそれぞれに対して5億円を支払うよう求め、東京地裁に訴えを提起した。

原判決は、上記各発明は本件特許の優先日前に発売された書籍「楽天市場の賢い買い方・使い方」(乙16)に記載された発明(乙16発明)と同一の発明であり、新規性を欠くから、原告らは本件特許を行使することができないとして、原告らの請求をいずれも棄却した。

原告らは、原判決を不服として控訴を提起した。

その後、原告らは、本件特許について、訂正審判請求(訂正2016-390052号)をし、特許庁は、平成28年7月26日、訂正を認める審決をし、同審決は同年8月4日確定した。原告は、控訴審において、訂正前の請求項4および7にそれぞれ対応する、訂正後の請求項4および7について特許権侵害を主張した。

本判決

本件における争点は、

(1) 被告装置・方法が訂正後の請求項4および7記載の各発明(訂正発明)の構成要件を充足するか否か
(2) 訂正発明に係る特許の無効理由(新規性・進歩性欠如)の有無
(3) 特許法69条2項2号の適用の可否、被告の先使用による通常実施権の有無
(4) 原告らの損害・損失の額

であったが、本判決は争点(2)のうち、乙16発明および周知技術に基づく進歩性欠如の点についてのみ判断し、訂正発明はいずれも進歩性を欠くと判断した。

訂正発明は、電子ショッピングモールを管理する管理装置および方法に関する発明であるところ、「電子ショッピングモールの全体に設定される商品分類に基づく共通カテゴリ」(共通カテゴリ)と、「商品を取り扱う店舗ごとに設定される商品分類に基づく店舗カテゴリ」(店舗カテゴリ)とを示す情報が記憶されており、共通カテゴリを示す情報およびそれに分類される商品を示す情報がクライアント装置に送信されて表示された後、ユーザが商品を選択すると、店舗カテゴリおよびそれに分類される商品を示す情報がクライアント装置に送信されることを特徴とするものであった。

他方、乙16には、楽天市場全体において共通に設定された商品分類(地ビール)の他、店舗(「はこだてビール」)ごとに設定された商品分類(「はこだてビールオリジナルギフトセット」)が存在し、ユーザが「地ビール」で検索すると、商品名「はこだてビールギフトJセット」が表示され、ユーザが当該商品を選択すると、「はこだてビールオリジナルギフトセット」の表題の下、「はこだてビールギフトAセット」「はこだてビールギフトBセット」等の複数の商品名が表示されることが記載されていた。

他方、訂正発明は、

① 共通カテゴリと店舗カテゴリとを示す情報を「商品情報テーブル」に「保存」し、
② 店舗カテゴリを示す情報と店舗カテゴリに分類される商品を示す情報を取得する際に「商品情報テーブルを検索」し、
③ 店舗カテゴリを示す情報と店舗カテゴリに分類される商品を示す情報を取得してWebページデータを「生成」する、

ものであるのに対し、乙16にはこれらの点について開示はなく、本判決は、これらの点を訂正発明と乙16発明の相違点として認定した。
(なお、前述した訂正審決は、これらの相違点に加え、④訂正発明が「店舗カテゴリを示す情報と前記店舗カテゴリに分類される商品を示す情報を記憶部から取得」するものであるのに対し、乙16にはかかる開示が無い点も相違点として認定したが、本判決は、かかる訂正発明の構成は乙16から読み取ることができるとして、相違点ではないと認定した。)

その上で、本判決は、相違点①②については、インターネットショッピングにおいて、その運営・管理に必要となる商品に関する各種情報を記憶するに当たり、テーブル(すなわち、行と列からなる2次元の表)の形式で保存することは周知技術であり、これを適用することによりこれらの相違点は当業者が容易に想到し得たものであると判断した。
この点、原告は、当該周知技術の中には、訂正発明の目的である、各店舗の独自性のアピール・反映という課題・目的や、各店舗の独自のカテゴリの併用という課題解決・目的達成の方向性に着目したものは存在しない旨主張した。しかしながら、本判決は、かかる課題・目的等は既に乙16発明が備えており、他方、上記周知技術はデータベースにデータを蓄積するための汎用技術であり、当該技術自体が特定の課題・目的を明示的に持っているかどうかを問題にする必要はないとして、原告の主張を排斥した。

また、本判決は、相違点③については、静的コンテンツ(要求のパスに指定されたhtmlなどのデータがそのまま応答のデータとしてブラウザに送信される方式のWebページ)と、動的コンテンツ(パスと共にクエリと呼ばれるパラメータが要求データとして送信され、これを受信したWebサーバは、スクリプトと呼ばれるプログラムに渡されたパラメータを指定して実行することで結果を生成し、それを応答のデータとしてブラウザに送信する方式のWebページ)の2種類のWebページデータ送信方法があることは、インターネットに係る技術分野における技術常識であるとした。
その上で、本判決は、乙16発明において動的コンテンツの方法を採用し、記憶手段から取得した個別の店舗独自に設定された商品分類に基づくジャンルの情報と当該ジャンルに属する商品の情報からWebページデータを「生成」するようにすることは、当業者が容易に想到し得たと判断した。
この点、原告は、乙16発明は、Webページデータを生成する際のプログラム実行に伴う負荷を軽減し、応答速度が遅くなることを回避するという設計思想により、あえて静的コンテンツの方法を採用したものであり、動的コンテンツの方法を採用することには阻害要因があると主張した。しかしながら、本判決は、動的コンテンツの方法と静的コンテンツの方法には必要なデータ記憶容量やサーバ装置の処理量の点でそれぞれ一長一短があり、いずれの方法を選択するかは、必要なデータ量やサーバ装置等の設備に要する性能・コスト等を考慮して適宜決めるべき設計的事項にすぎないとして、原告の主張を排斥した。

結論として、本判決は、訂正発明は、本件特許の優先日前に当業者が乙16発明および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものと認められるから、訂正発明に係る特許には、進歩性欠如(特許法29条2項違反)の無効理由があり、原告は本件特許を行使することはできないと判断して、原告の控訴を棄却した。

検討

本件において問題となった特許は、インターネットにおけるデータの管理装置(サーバー装置)およびその管理方法に関する特許であり、一種のビジネスモデル特許であるともいえる。この種の特許は、一見、権利範囲が広く見えることが多いが、実際の権利行使の場面においては、クレーム解釈により権利範囲が狭く解釈され、あるいは進歩性欠如等により特許が無効であると判断され、原告の請求が棄却されるケースが多い。本件においても、結論として本件特許は無効であると判断されており(しかも、訂正審判においては進歩性が認められたのに対し、本判決は進歩性を否定している)、この種の特許の権利行使の難しさを改めて感じさせる判決であるともいえる。

技術常識の水準も日々進歩している点からも、特許で保護できる権利の確保は容易ではないが、将来を見据えた技術を元に現在の権利化ができるかどうかが重要になってくると考えられる。

本判決の全文はこちら(外部ウェブサイト)

文責: 石原 一樹 (弁護士)