平成30年7月4日号

不正競争ニュース

東京地裁、折り畳み傘の形態が商品等表示に当たり、被告商品の輸入、譲渡等が不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たるとして、差止め・廃棄及び損害賠償責任を認める

原告が、自らが販売する折り畳み傘の形態が商品等表示に当たり、これと類似する被告商品の輸入、譲渡等の行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に当たるとして、被告による被告商品の輸入、譲渡等の差止め及び被告商品の廃棄並びに損害賠償を求めた事案において、東京地裁は、原告製造にかかる折り畳み傘の形態が商品等表示に当たると判断し、請求の一部を認容した(東京地裁平成30年2月27日判決(平成28年(ワ)第10736号))。

事実関係

原告は、洋傘の製造及び販売を行う会社であり、平成16年11月頃から、「ポケフラット」、「ポケフラシャトル」の商品名の折り畳み傘(「原告商品」)の販売を開始した。
原告商品は、折り畳んで包袋に入れた状態において、以下の①~③の形態を有している。
①本体部分は、全長約22~24cm、横幅はポケフラットが約6.0~6.5cm、ポケフラシャトルが約4.5~5.0cm、厚さ約2.5cmの薄く扁平な板のような形状をしている。
②本体部分の板の面は、傘布のふくらみによりやや弧を描いて丸みを帯びている。
③柄の部分は、薄く扁平な板の長手方向の一端を構成し、本体部分の横幅及び厚さを超えない幅の扁平な形状をしている。


原告商品の写真
http://www.water-front-online.com/shopdetail/000000000176/agom/page1/recommend/より引用




被告は、洋傘の卸売等を行う会社であり、平成27年初め頃から、以下の①~③の形態を有する折り畳み傘(「被告商品」)の輸入及び販売を開始した。
①本体部分は、全長(最長部分)約24cm、横幅(最大部分)6.5cm、厚さ(最大部分)約2.5cmの薄く扁平な板のような形状をしている。
②本体部分の板の面は、傘布のふくらみによりやや弧を描いて丸みを帯びている。
③柄の部分は、薄く扁平な板の長手方向の一端を構成し、本体部分の横幅及び厚さを超えない幅の扁平な形状をしている。

原告は、原告商品形態は、上記①~③の形状によって、需要者に対し、一般的な折り畳み傘と比べて薄く扁平な板のような形状であるという点を特に印象付けるものであるから特別顕著性があると主張した。さらに、原告商品は、ターミナル駅にある小売店舗やコンビニエンスストア等の多くの消費者が利用する店舗を販売先として、商品の展示方法にも工夫をし、また多額の宣伝広告等費用を費やしメディアからも多数の取材を受けた。このような営業活動の結果、原告商品は平成27年末までに累計約1823万本という爆発的な販売実績を記録するまでに至っており、原告商品形態は需要者に広く認識されているといえ、不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に当たり、原告商品形態と形態的特徴がほぼ一致する被告商品は原告商品と混同を生じさせるおそれがあると主張した。
損害賠償請求については、不正競争防止法5条2項に基づく損害額(被告が被告商品の販売により受けた利益額)として272万4000円、弁護士費用相当額200万円及び遅延損害金の合計472万4000円の支払いを求めた。


本判決

1 原告商品形態についての周知の商品等表示該当性について

本判決は、不正競争防止法2条1項1号の趣旨は、「周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため、周知名商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより、同法の目的である事業者間の公正な競争を確保することにある」とした。その上で、商品の形態は、商標等とは異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている(周知性)場合には、その形態自体が二次的意味を有するに至り、不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に該当するとした。
本件における原告商品の特別顕著性及び周知性については、以下のように判断され、原告商品形態は不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当すると認められた。

(1)特別顕著性について
一般的な折り畳み傘が、折り畳んで包袋に入れた状態では円筒形の形態をしているのに対し、原告商品形態は、円筒形でないだけでなく、全体的に薄く扁平な板のような形状であり、一般的な折り畳み傘の形状とは明らかに異なる特徴を有しているとした。また、「新しい時代に先駆けた独創的な新製品」との評価を受けて2004年(平成16年)日経優秀製品・サービス賞等を受賞し、メディアや一般消費者からも原告商品が薄いことが強調されて採りあげられていることから、原告商品は需要者に対しても、全体的に薄く扁平な板のような形状を有する商品であるとの強い印象を与えるとして、原告商品形態について特別顕著性を認めた。

なお、原告商品の形態的特徴について、被告は、原告商品の他にも、折り畳んで包袋に入れた状態が薄く扁平な板のような形状になる折り畳み傘や折り畳み傘の骨組みが存在し、一部の商品は原告商品が販売されるより前から販売されており、折り畳んだときの傘の骨組みが直方体となる形状の実用新案登録及び特許出願もされていたため、このような形態はありふれたものであると主張していた。この被告の主張に対して、裁判所は、一定の形状の折り畳み傘の骨組みや関連する実用新案登録等が存在するとしても、それを利用した折り畳み傘の形態は不明であり、折り畳み傘の形態としての原告商品形態の特別顕著性の有無を直ちに左右するものとはいえない等として、被告の主張を退けた。

(2)周知性について
原告商品の販売実績については、平成16年11月頃の販売開始以降、平成29年10月末までの累計販売数量は2000万本を超え、日本に輸入される折り畳み傘のうち(※日本で販売される折り畳み傘は輸入されたものがほとんどである。)、ポケフラットは平成19年から平成26年は約8%ないし9%、平成27年から平成29年までは約6%を占めていたと認定された。
宣伝広告活動については、平成27年末時点で総額2477万8659円の費用が投じられた。新聞雑誌等の広告においては、原告商品形態を判別し得る形で原告商品が薄いことを強調する写真(原告商品をポケットに入れた状態のもの等)や文章が掲載され、100を超える広告媒体から取材を受けた際にも原告商品が薄いことが強調された。また、そのような宣伝広告活動の結果、消費者の側においても、インターネット上の商品販売サイトや個人ブログ等で、原告商品形態が判別し得る形で掲載され、原告商品が薄いことが強調されていたと認定され、原告商品形態は、遅くとも平成27年初め頃の時点で、原告の出所を示すものとして需要者に広く認識されたと認められた。

2 原告商品と被告商品の形態の類似性及び混同の有無について

その上で、原告商品形態と被告商品形態とを比較すると、全長及び横幅以外の点は全体にわたって共通し、当該共通点により両商品とも薄く扁平な板のような形状をしているという特徴を需要者に強く印象付けるため、被告商品形態は、原告商品と出所の混同を生じさせるとし、被告による被告商品の輸入及び販売行為は不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当すると判断した。

3 結論

以上により、裁判所は、被告商品の輸入及び譲渡等の差止め並びに被告商品の廃棄の請求を認めた。損害賠償請求については、原告商品には、小売価格が500円~3000円の6種類の商品があるところ、「利益の額」(不正競争防止法5条1項)はこれらの限界利益を単純に平均するのではなく、原告商品の総合計販売数量と各原告商品の合計販売数量との割合を考慮して算定すべきであるとした上で、同項に基づく損害額を認定した。

検討

本判決が示す不正競争防止法2条1項1号における「商品等表示」該当性についての「特別顕著性」と「周知性」の要件は、従来の裁判例でも用いられてきた一般的な基準である。さらに、「特別顕著性」については、「客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有している場合」や「独自の形態的特徴」等とも説明されるが、何をもって「客観的」、「独自」と評価するのかについては、問題となる。
本判決では、原告商品の販売実績や宣伝広告活動、それを受けての一般消費者の認識等の点が詳細に認定されているが、「薄く扁平な板のような形状」という原告商品形態の特徴について、原告商品自体の観察からそのような特徴が掴めるばかりでなく、広告や各メディアで採りあげられた際にもこの特徴が強調され、その結果、消費者にも強く印象付けられているとの状況から、その特徴の客観性が明確に裏付けられている。この点は、周知性だけでなく特別顕著性との関係でも、同様の事案における主張立証活動や企業の模倣品対策も念頭においた宣伝広告活動等の参考になると考えられる。

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文責: 本阿弥 友子(弁護士)